ch.1 暗い世界、昏い世
二つの月が照らす世界。
一つの月は蒼く、もう一方は紅く輝いている。
その二つの月はまるで一つの月のように重なって紫色に輝いて見えるが
その両端では蒼く縁取られた部分と紅く縁取られた部分があり、それが
二つの衛星であることを教えている。
今宵は満月、二つの月が眼下にある世界を照らす、
妖しく、愁いを帯びたこの世界を象徴するかのように・・・
二つの月が照らす中、一つの兇星が舞い降りる。
いや、正しく言えば誕生なのだろう、
世界を滅する破滅の王の・・・・
草木も眠るような時間帯に一人の少年が立っていた。
集落の見渡せる小高い丘に少年は立っていた。
何かを、呆然と見つめているようである、
少年の見つめる先には一つの集落がある。
「リバース・クロスヴィレッジ」、少年の生まれ故郷であり
今でもそこで生活している。
しかし、今ひとつの異変が起きている、
少年の見つめているその村は今、轟々(ごうごう)と激しく燃えている。
少年はそれを見つめるだけで動こうとはしない。
村に向かうことも、逃げることもなく
ただただ、呆然と村が燃えているのを見つめるだけである。
なぜ、燃えているのか?
少年はその答えを知っている。
それは、唐突に現れ
一瞬にして少年の村はそれによって壊滅させられた。
だが、少年はそれが何であるのかは解らなかった。
唯一つ解ったことは少年はこの村でただ一人の生き残りであることだった。
8年後・・・
舞台は一つの大陸を四つに別けたうちの一つダーク(悪人種)の住む地域ダークサイド。
クロスゴッド・フォレストにて
一人の青年らしきダークが薄暗い森の中を歩いている。
一見すると彼は十八〜二十歳くらいに見える。
青年の耳は軽く尖っている。
青年の左眼の下にはなにやら紋章らしきタトゥーが彫られている。
これは、ダーク特有の習慣みたいなものである。
彼の周りの木々はとても高く陽の光を遮るように繁っていて不気味な雰囲気である。
地面から伸びる草花などはすねの中間辺りまで伸びている。
時折、森の奥から聞こえてくる何かの鳥の鳴き声が不気味さを
さらに際立たせる。
しかし、青年はそんなことは気にもしないという風な感じに
ひたすらに森の中を歩き続けている。
彼はある目的のために森の先にある都市を目指している。
彼が森の中を歩き続けて1,2時間くらいたった頃
ある異変が起きた。
さっきまで時折鳴いていた鳥の鳴き声がはたと止んだのである。
「・・・・?・・」
青年は訝しみ(いぶか)、周囲に気を配りながらまた歩き始めた。
そのまま、少し歩いたところで視界が開け小さな湖が見えた。
さらに近づくと、青年はなぜ鳥たちの鳴き声が止まったのか悟った。
湖の辺(ほとり)のちょうどいい大きさの石の上に一人の少女が座っていた。
16〜18歳くらいの少女だ。髪は肩辺りまで伸びている。
その少女はこんな森の中、一人でいるようだ。
少女は唄っていた。
大きな声で唄っているワケではないのに、むしろ囁くように唄っているのに
その少女の声は森の中全体に響き渡るようにして聞こえる。
青年の耳にもしっかりと言葉の一つ一つがしっかりと聞こえてくる。
なにか、安らぎを感じるような唄だった。
青年は、少女のいる湖に近づこうとしてハッとなり、
いきなり少女の方に向かって走り出した。
少女はいきなり出てきた青年に驚いている様子だが、
青年は気にする素振りはなくそのまま、少女に近づき、
通り過ぎた。
少女がきょとんとしていると、青年の入っていった森の方で
叫び声が聞こえた。
「!!?」
いきなりのことで、少女はまた驚いた。
そしてまた、青年が出てきた。服や顔に血がついている。
少女がボーっとしていると青年がいきなり少女の手を掴んだ。
「おい、あんた」
少女は、我に返り手を振りほどこうとして手を振る。
「な、なんなんですか、あなたは・・・!!」
青年はぐいと少女を引っ張り片手で俗に言うお姫様抱っこをして走り出す。
「説明は後だ、と言うか時期に解る」
青年は半誘拐的に少女を連れて森の中に消えていった。
湖の周りでざわつきが起きた。
(くそ、気付かれた・・!急いで追うぞ・・・!!)
((おう!))
湖の周りのざわつきが消えた。
湖から少し離れた森の中
青年が担いでいる少女に問いかける。
「あんた、名前は?」
聞かれて少女が答える。
「・・・ミリアです、ミリア・ローィエン」
名前を聞いて青年が答える。
「ミリアか、・・・なかなかいい名だな」
「そういうあなたの名前はなんて言うんです?」
聞かれて青年が答える。
「俺の名前か?俺の名は・・・」
答えようとしたが、途中で喋るのをやめた。と言うより、動くこと自体を青年はやめて
いた。
「・・・やはり、追いつかれたか」
青年は呟くように言いながら、ミリアを下ろした。
「・・・え?」
ミリアは条件反射的に聞き返した。
「さっきのやつの仲間さ。
ミリア、あんたを殺そうと狙ってたやつのな・・・!!」
そう言って、青年は木々の間に向かって行く。
「ミリア、そこから動くなよ!」
そして、青年は木々の間に消えていった。
ミリアはきょとんとして
「なんなの、一体!?」
そう呟いた。
Next.