ch.1-3 暗い世界、昏い世
クロスゴット・フォレスト〜ミリアのいる場所〜
ミリアの居る場所からはアズールが戦っている姿は見えないが
音だけはさっきからしっかりと聞こえてきていた。
肉を裂く音、何かが破裂する音、悲鳴、殴る音、地を削る音
そのすべてが生々しく聞こえるがミリアは動かなかった。
動けなかったワケではない。
アズールの言われたとおりにそこに立ってことの終わりを待って
いるのである。
アズールに会ってまだ1時間と経っていないがそれでも信用させる雰囲気を
持っている。無愛想ではあるが。
ミリアは待っている、青年が帰ってくるのを。
クロスゴット・フォレスト
アズールは眼を閉じ耳を澄まし、ピクリとも動かない。
その周りを一陣の風が吹き抜ける、
「・・・!!」
アズールは眼を開け、右後方に向かって大剣を振り下ろす。
ギィン、と鈍い音がして大剣の動作を途中で終了させられた。
大剣を止められて、すぐ振り向きざまに蹴ろうとするが向うの方が速かった。
鋭い痛みを脇腹に感じた瞬間には4,5メートル吹き飛ばされ全身を強く強打していた。
「グッ・・」
アズールは痛みをこらえ直ぐに立ち上がる、が既に向うは次の攻撃を始めている。
姿が見えないだけではなく、気配も感じられない。
(特殊な体術か・・・、クソっ)
アズールはとりあえず死角となる背後を塞ぐべく大木に背を預ける。
と、どこからともなく、声が響いてくる。
『ハハハ、・・・そのようなことをしても無駄だぞ?』
その声には自信が満ちている。
アズールはその声を無視するように周りに気を配っている。
と、前方で草が大きく動いた。
(くるか・・!)
アズールが前方に身構えた。
が、攻撃は思わぬところから来た。
めきめきっ、と音をたてながら真後ろから自分の背にしていた大木が
向かってきた。
アズールは振り向く勢いで大剣に速さと重さを加えて大木の軌道を変更させる。
その隙を衝かれ、背中に蹴撃を喰らう。
「がっ・・・!!」
またしても、吹き飛ばされるが今度は受身を取りビーストに視線を向けるが
やはり、既に移動した後である。
「・・・ムカツクぜ。・・・・だが、大体読めてきたな」
アズールはニヤリと唇を歪ませる。
『強がりはよせ、お前に俺の動きは読めまい・・・』
ビーストが言う。
「御託はいいから、掛かって来いよ」
更に、挑発する。
『・・・ッ!!口の減らない奴め!』
声が響き終わりアズールの周りは高速で動いくことによって出来た風が
吹き抜ける。
次第に風が強くなっていく。
「・・・・・?なんだ、ただ回ってるだけか??」
そんな事はないと分かっているアズールだがあえて口にして相手を
挑発する。
しかし、相手はもはやアズールの言葉に耳を貸す気はないらしい。
「・・・フン。なら、仕掛けられる前にこちらからいかせてもらう・・・」
アズールは呼吸を浅く、そして速くする。
フッフッフッフッ、と短い呼吸音が耳に聞こえる。
その間にも、アズールの周りの風は勢いを増していく、
もはや、アズールは台風の中心に居るようなものである。
だが、アズールは気にも留めず呼吸に集中している。
「フッフッフッフッフッ、・・・・」
アズールの不気味な呼吸が止まった。
「・・・・・最大の鼓動(ビート)、最強の幻想(イメージ)・・・」
アズールはゆっくりと眼を閉じた。
「・・・・・最高の状態(テンション)、・・・・・・」
周りに渦巻く旋風が動いた、
小さくなっていく、
圧縮されるように渦が小さくなっていく、
アズールを巻き込むように、
眼前まで風の刃が迫ってきた時、アズールは眼を見開いた。
「・・・・・最凶の刃(バースト)・・・・・・」
と、ビーストがいきなり話し掛けてきた。
「ハハ、今頃何をやろうと言うのだ、アズールよ」
「・・・・ンな、事言ってないで早く来い。
俺が終幕(カーテンコール)を弾いてやる」
ビーストの顔が引きつるのが分かった。
「最後までむかつく奴だ・・・いいだろう、このまま
細切れ(こまぎれ)になるがいい!!」
旋風がさらに威力を増し、アズールに襲い掛かる。
アズールは、身動き一つせずじっとしている。
「フ、すでに諦めていたのか、なるほど、
ならば、一気に片をつけてやろう!!
大旋風(グラン・エッジ)!!!」
旋風が一瞬アズールの上に飛び勢いをつけてアズールに向かう、
「・・・・・・つまらねぇ、所詮お前はこの程度か」
旋風の先端が尖り、まるでドリルのようだ。
そんなことを、思いながら瞬間に
アズールは一歩後ろに下がり、旋風に対して構えた。
「・・・魔剣『バンニール』、伍節劫火・瞬獄炎(ごうか・しゅんごくえん)・・・」
刹那、勝負は決した。
Next.